仕事の話ならできるけど仕事を離れると話に困る人!これで解決

山田賢一は不動産屋で働く32歳。
今日も彼と同年代に見える女性三木聖子を車に乗せて、目ぼしい物件を一件一件案内していた。

「この町は最近インスタで芸能人が紹介してから、人気になっているんですよ」
「へえ!誰?」
「美剣流也です」
「みつるぎりゅうや?・・・あ!あの!」

賢一はお客とのコミュニケーションで困ったことはない。
一度の接客では二時間ほどお客を案内するが、 会話はとぎれたことはない。

ところが、ある日の昼下がり。

彼が一人遅いランチをカフェのカウンターで食べていたら、少し前に彼の横に座った女性が突然彼に話しかけて来た。

「あら、山田さん?先日お世話になった三木です。偶然ですね。いまお昼ですか」
今日は休日なのか、聖子は洗いざらしたデニムに刺繍の入った白のブラウスをモデルのように着こなしていた。
ふいをつかれた彼は慌てて返事をした。
「あ!はい、あの時はありがとうございました」
「すいません、ぜんぜん気づかなくて。お隣に座ってしまいました」
「いいえ、こちらこそすいません。ぼんやりしていて」

しばらくは賢一が紹介したマンションの住み心地について話は続いたが、それもすぐに話題が尽きてしまって、気まずい空気が流れた。

「山田さんって、ふだんはあまりお話なさらない方なんですね」
驚いた様子で聖子が尋ねた。
「はあ、どうも申し訳ありません。自分は仕事の話ならいくらでもできるんですけど」
「そうですか。くつろいでいらっしゃるところにいきなり申し訳ありませんでした」
聖子は少し寂しげな色を瞳に浮かべて、席を立っていった。

カフェからの帰り、賢一は車のハンドルを握りながら、自己嫌悪感と闘っていた。
自分は決して話が下手なわけではない。
ただ、仕事以外の話が苦手なだけなんだ。
見た目も悪くない彼だが、これまでの32年間で付き合った女性は2人だけ。
それも三か月以内に自然消滅する儚い恋の経験しかないことも、彼の秘められたコンプレックスでもあった。

仕事以外の話題を持っていない戸惑い

この賢一のような戸惑いを持つ人は多いものです。
仕事という話題を失うととたんに会話に困るということは、仕事以外の話題を何も持ってはいないということになります。

仕事の会話というのは、話題も決まっていて相手に対する質問も定型文がありますから、あまり頭脳を使う必要もない楽な会話です。

こういう方には、五感を刺激して脳を活性化する意識を持つことをお勧めします。
目で見たもの、耳で聞いたもの、肌で感じたもの、匂いや味から得られる感覚を話題にするのです。

とくに視覚や肌の感覚で感じたものは、いい話題になります。
「もう秋の雲ですね(冬の雲ですね)」
「夕暮れが早くなりましたね」
「このビル、一週間で解体がすんでしまいましたね」
目に見えるものに意識を向ければ、話題にすることもむずかしくはありません。

次は肌の感覚です。肌は気温や湿度などを敏感に感じ取ってくれます。
「寒くなって来ましたね(温かくなって来ましたね)」
「梅雨になってじめっとしますね」
「日差しが痛いぐらいですね」

そして「秋の雲を見ると、私・・・」
「ビルの解体が一週間ですんでしまうのを見て、私・・・」
「寒くなってきたので、私・・・」
というように、ちょっとした話題から自分の話へとつなげていきます。

例えば
「秋の雲を見ると、バイクに乗りたくなりますね」
「ビルの解体があっという間に進んだので、解体するところを見逃してしまいました。私、ビルが壊されて行くのを見るのがたまらなく好きでして」
「寒くなって来たので、昨日早速コタツを出しました。コタツ好きなんですよ」

と自分の感じ方を伝えます。
そうすると相手もそのイメージを思い描くことができて、そこから質問やそれに関する相手の話を語ってくれたりするので、会話がはずむのです。

目で見る、耳で聞く、肌で感じるものはそこにいる人の間では共通の話題。
そこから自分のエピソードにつなげれば、相手も違和感なく話に入って行けるというわけです。
感じたこと → 自分のエピソードへの展開ができるようになると、会話には困らなくなるでしょう。

つまり一人の人間として思うことや感じることを話す力をつければ、仕事を離れても人間らしい会話ができるということです。
ぜひお試しくださいませ。


あの日の失敗から半年。
山田賢一はあの町のあのカフェで聖子を待っていた。
そう、二人はひょんなことから再会し、付き合うようになっていたのだ。

「ごめんなさい、遅刻しちゃって」と笑顔で謝る聖子に
「いいよ、僕も今来たところだから」と賢一は明るく返し、半分に減ったコーヒーカップを慌てて口に持っていった。

「無理しちゃって」
「へへへ。外は寒かったでしょ」
「そうね、もう十一月だもんね」
「うちの近所の桜の木も、もう紅葉がはじまってて赤くなっていたよ」
「へー、そんな感性あったんだ、ケンちゃん」
「もう少しで俳句を詠むところだった」
「あははは、ケンちゃんってこんなに面白かったっけ」
「ああ、聖子が付き合ってくれたお陰かな」
「もー、照れるから」

聖子の顔が喜びではじけるのを見ながら「ま、そういうことにしておこう」と賢一は心の中で首をすくめた。
この数カ月、土曜日は仕事が忙しいと言って会うのは夜だけにしてきた。

しかし、その時間に実はコミュニケーションを習いに行っていたことは、しばらくは秘密にしておこうと思うのだった。

仕事の話ならできるけど仕事を離れると話に困る人:まとめ

  1. 仕事の話というのは話題も決まっていて、あまり頭を使う必要はない簡単な会話
  2. 目で見たもの、耳で聞いたもの、肌で感じたもの、匂いや味から得られる感覚を話題にする
  3. 動それはその場にいる二人には共通の話題
  4. 「朝晩は冷え込んで来ましたね」と言葉を投げかけ、相手が「そうですね」と返事しやすくする
  5. 「寒くなって来たので私・・・」という流れで自分のエピソードを短く話す
  6. するとお互いにイメージが広がり、気持ちを感じることができるので、話が広がりやすくなる

 

温かな人間関係をつくるコミュニケーションをマスターするなら