スピーチ、プレゼンが苦手な人の特徴と上手くなるコツ
A子さんはとある司法書士事務所の社員。
ある日、所長に呼び出された彼女は、恐れていた使命を受ける。
「A子さん、こんどの老人ホームでのプレゼン、あなたがやってよ。あなたスピーチの才能あるでしょう」
「えっ!私、スピーチ苦手ですよ」
「まあ、何でも経験だ。やってみてくれ」
彼女の事務所は、いま成年後見の啓発セミナーを様々な施設で行っている。
これまでは所長やベテランの所員が担当して来たが、ついにそのお役目がA子さんに回って来たようだ。
「私にプレゼン役なんかを押し付けて、うちの事務所の信用がなくなってもわたしゃ知らないよ」そう愚痴をこぼすA子さんであった。
何しろ人前で話すことなんて、高校の時の生徒会以来だし。あの時のスピーチだって、しどろもどろだったんだから。
3分間の朝礼スピーチでも悩みのタネに
さて。
A子さんと同じような経験をお持ちの方も多いかもしれません。
スピーチは苦手だから事務職を選んだのに、突然の部署異動でプレゼンの役目がまわってきた。
人前で話すことは本当に苦手で逃げ続けてきたけど、勤続年数も長くなって避けられなくなってきた。
たった3分程度の朝礼スピーチが憂鬱すぎて、夜も眠れない。
など、責任感が強くて真面目な人ほどスピーチに戸惑わされているようです。
人前でのスピーチ。
しかも何らかの成果を持ち帰らなければならないという重責は、ビジネスパーソンの胃の粘膜を痛めつけます。太田胃酸が売れ続ける理由がわかるというもの。
でももし、スピーチに簡単なコツがあったらどうでしょうか。しかも準備に30分もあればいいだなんて。
ついやってしまう失敗スピーチ
スピーチの失敗は誰だって避けたい。失敗したくないと思っているのに、私たちがついやってしまうことがあります。
それは、自分が知っている物事を時系列で順番に並べてしまうこと。
A子さんの場合
- 自分たち司法書士についての紹介
- 日本の高齢化について
- 認知症についての理解
- 認知症とその家族について
- 家族が担う役割の変化
- 成年後見制度の成り立ち
- 後見人に必要な法律知識etc
…A子さんには言いたいことがありすぎてとても時間内におさまりそうにありません。
いったい何が言いたいのか自分でもわからなくなってしまいました。
「とにかく全部言おうとする」
実は、スピーチの失敗はここにあります。
スピーカーとしては、
「言いたいことは全部言ったよ」
「隅々まで細かく補足もしたよ」
「ついでに言ったほうが良さそうなことも、もれなく言ったよ」
と、伝えきった気持ちになりがち。
これこそが聞き手を苦しめているということに気付かなければなりません。
専門家が専門的なありとあらゆる情報を次々と送り込んできたら、それは聞き手にとってはなかなかの地獄です。
「全部言ったから後はあなたがうまく処理して理解してね。よろしく」
そんなふうに聞き手には聞こえているのです。それでは人の心を動かすことができないのもうなずけますよね。
「いろいろ言っていたけど、結局この人は何が言いたかったのだろう」
聞き手にそう思わせたらそのスピーチは失敗だったということになります。
さあ、これからあなたのスピーチを変えていきましょう。
たった3つの柱をはっきりさせるだけで、素晴らしい原稿が完成します。
失敗しない!スピーチの成功を決める3つの柱の立て方
ではスピーチやプレゼンの原稿を作る際のコツをお伝えしていきます。
スピーチの成功を決める3つの柱とは
- 誰に向けて話すのか決める
- 何を伝えるのかを決める
- 相手に何をしてほしいのか明確にする
「誰に」「何を」「どうしろ」と覚えてください。
この3つを明確にできれば、もうスピーチは成功したも同然です。
素晴らしい原稿が手元にある!
そう確信できれば緊張だって小さくなるというものです。
さあ、一緒に原稿を作り上げていきましょう。
1:誰に向けて話すのか決める
誰に向けて話すって、その場にいる人でしょ?
そう思われたかもしれません。
ここをもっと具体的に考えてみることがスピーチを成功させる秘訣になります。
例えば、取引先に自社商品を売り込む場合。
その場に集まっているのは、
- 社長
- 取締役
- 担当責任者
- その部下
- 秘書
- 新入社員
もっと他にも集まっているかもしれません。
その中で、最も重要と思われる人物、その人に目がけて話をすると決めます。
それは社長かもしれないし、担当責任者のほうかもしれません。
決定権を持っているのは誰なのか、事前にどの人がキーパーソンかを調べておく必要があります。
社長に訴えるなら、
「この製品を導入することで会社の業績が飛躍する」
と伝えるのがベストかもしれませんし、
担当責任者に訴えるなら、
「この製品を導入することで効率が良くなる」
と伝えたほうが良いかもしれません。
「誰に」向けて話をするのかによって、スピーチの内容自体が全く違うものになってきます。
あなたのプレゼンは、その場に集まっている「誰に」向けて話さなければならないのかぜひ考えてみてください。
A子さんのプレゼン会場には、もちろんお年寄りが多く集まります。そこで細分化をしてみることにしました。
- ご家族と同居中のお年寄り
- お一人暮らしのお年寄り
- 身寄りのないお年寄り
- 成年後見制度に知識のないお年寄り
- 成年後見制度に興味のあるお年寄り
- 自分の親を介護しているお年寄り
たくさんありそうでしたが、その中でA子さんは、
「まだ成年後見制度に知識がないお年寄り」
を対象にしよう、と決めることができました。
2:何を伝えるのかを決める
あなたはそのスピーチでいったい何を伝えるのか、ひとことで言えますか?
意外にも私たちは、何を伝えなければならないのかをわかっていないまま話し始めていることが多いんです。
すると話は
「これも伝えなきゃ」
「あれも言っておかなきゃ」
「そういえばこれも言ったほうが親切かも」
という按配になり、スピーチはブレまくる。
- ライバル社との違い
- どれほどの利益を御社に貢献できるか
- 御社の3年後をいかに変える影響力を持つのか
…どれも良さそうに聞こえるのですが、伝えるべきことは、たくさんあればいいと言うものではありません。
一番のコツは、相手の心を動かす
ビッグキーワードを1つに絞ること。
ここで前述の「誰に」が生きてきます。
「誰に」つまりどの立場にいる人に訴えるかによって、胸を打つワードは違う。ということ。
あなたのプレゼンは「誰に」「何を」訴える必要があるのか決めていきましょう。
これが決まれば、そのスピーチやプレゼンは勝ったも同じです。
A子さんも迷いに迷いました。
「まだ成年後見制度に知識がないお年寄り」に伝えたいこともやっぱりたくさんあります。
- 成年後見制度についての詳細、手続き方法
- これまでの事例の紹介
など様々に考えた結果、
「成年後見を決めておかないと、あなたに認知症などの症状が出た後、家族がほとほと困る」
ということを伝えようと決めました。
これはなかなか良いテーマが決まったのではないでしょうか。
3:相手に何をしてほしいのか明確にする
いよいよプレゼンも締めくくりです。
「この話を聞いた後で、あなたにはぜひこうしてほしいのです!」
このことを明確に意識して話す必要があります。
最終的にあなたにはこうして欲しい、こう動いてほしい、と伝え手である自分自身がわかっていなければ、人が動くはずがありません。
これもまた、わかっているようで自覚できていなかったというケースが多く、一流企業の部課長クラスの人でさえ、うまくつかみ取れていないこともあります。意外と難しいことなんです。
このプレゼンを聞いて、最終的には
- 製品を今すぐ購入してほしいのか
- お試しで導入してほしいのか
- 関連部署に告知をしてほしいのか
- メルマガを登録してほしいのか
- 本を買ってほしいのかetc
それをまた「全部だ」と思えば、話があちらこちらへ飛んでしまいます。
自分が伝えるべき物事を自分自身がはっきりさせれば、そのスピーチは一本筋の通ったものになり、聞き手は行動をおこしやすくなります。
聞き手が
「私に言われている」と感じ
「それはいい話だな」と感じ
「終わったらさっそくこれをしよう」と動く。
この流れが完成すれば、あなたのスピーチは大成功です。
A子さんの場合は、「本日セミナー終了後に、成年後見制度の無料個別相談会を開きます。今日だけ無料ですからぜひ受けて帰って下さい」ということを中心に伝えようと決めて、セミナーの中で各部分の締めにこのフレーズを散りばめました。
聞き手のお年寄りの耳にこの言葉が焼き付くよう心掛けたのです。
こうしてA子さんは無事に、成年後見制度を啓発するセミナーを終了。無料個別相談会にも所長を上回る率でお年寄りを集めて、所長の「わしの目に狂いはなかった」という言葉を引き出したのです。
スピーチのコツ まとめ
- その日出席する方々の中で、誰に照準を合わせるのか決める。
- その日、伝えるべきキーワードを決める。
- 話が終わった後で、出席者の方々にどう動いてほしいのか、明確にする。